三浦綾子・原作  山田火砂子・監督

「母」 

小 林 多 喜 二 の 母 の 物 語

 

【キャスト】

小林セキ:寺島しのぶ 小林多喜二:塩谷瞬 

近藤牧師:山口馬木也 駐在:徳光和夫

小林末松:渡辺いっけい 安倍特高部長:佐野史郎

安田医師:赤塚真人  



 

 

 

 

 

2月20日は多喜二の没後85回目の命日です

 皆さんは小林多喜二という作家をご存知でしょう。社会科の教科書にも出て来る著名な作家です。作品「蟹工船」はプロレタリア文学の金字塔として今も読み継がれています。2008年、多喜二の「蟹工船」が若い人たちに注目され、多喜二ブームを引き起こしました。「好きなときに好きなように働ける」という美名のもとに始まった派遣労働が、実際は雇用者の都合優先、解雇自由、健康保険・社会保険なしという、日比谷公園に開設された年越し派遣村が象徴するような実態が明らかになり、それが70年以上前に多喜二が描きだした「蟹工船」の状況と重なる部分が多かったからです。

 それから10年、今の日本はどうでしょうか。貧富の差が広がり、子どもの貧困率は先進国で一番高く、教育予算はGDP比で最下位、非正規雇用労働者は2,000万人を越えています。「秘密保護法」で「知る権利」を奪い、「共謀罪法(改正組織犯罪処罰法)」で市民運動に恫喝をかけ、集団的自衛権容認を「閣議決定」し、「戦争法(平和安全法制)」で海外派兵への目論見を現政権は明らかにしています。邪魔な憲法9条の精神を何とか骨抜きにしようとする動きと、それを阻止しようとする運動がせめぎ合っているのが今の状況です。

 多喜二は「貧乏」だったから貧しい人や労働者の苦しみを描いたのではありません。銀行員であった多喜二は高給取りでした。多喜二は己の豊かな生活を棄てても、「貧乏人のいない世の中ばつくりたいと、心の底から思って」小説を書き、スパイにおびき出されて逮捕され、その日のうちに虐殺されました。特高警察(今の公安警察でしょうか)は権力や資本家の罪悪を暴き出す多喜二がよほど憎かったのでしょう。警察発表では死因は「心臓麻痺」、葬儀に参列する人を片っ端から逮捕し留置したそうです。多喜二の身体に刻まれた凄まじい拷問を示す写真も残されていますが、当時も今も権力は「知らん顔」をし、虐殺に加わった警察官は罪に問われないばかりか、戦後「功績顕著」として特別表彰をうけた人もいます。

 

 この映画は多喜二の母セキの生き様を描いています。子供を愛し、信じた母親、無学で字も読めないが優しい公正な心を持っていた母親。多喜二を喪ったセキは「わからないままに」キリスト教の教えに近づきます。ピエタで描かれる「聖母マリアとキリスト」の姿に、多喜二の遺体を見つめる自分の姿を見たのかも知れません。セキは1961年、87歳で亡くなり、その葬儀は小樽シオン教会の近藤牧師のもとで執り行われました。

 多喜二が終生愛したと言われる田口タキは2009年に亡くなりました。多喜二によって苦界から救い出された後、多喜二を慕いながらも多喜二とは結婚せず、美容師になって弟妹の面倒を見た後、商家に嫁いで幸せな家庭を築きました。享年101歳。多喜二の命日には欠かさず供物を届けたそうです。

 

(「映画サークル十人十色」のチラシより)